蜜味センチメンタル

「分かりました」

そう言わざるを得なかった。けれどその瞬間、羅華がふっと目を伏せたような気がして、喉の奥がつまる。

無理をしているように見えた。ひとりで何かを抱えて、それでも平気なふりをしている横顔が、なぜだか遠く感じてしまった。

羅華にとって、自分に依存する母に会いにいくことは普通の帰省ではない。ただでさえ仕事に追われて背負うものが多い彼女には荷が重すぎる。

本当は、何かできたらと思った。力になりたかった。けれど彼女にとって何の立場でもない那色では、ただ見送るしかできなかった。

「……って、本当はちょっとショックですけどね」

「え?」

羅華の目が小さく見開く。

「だって週末に会えるのが唯一の楽しみだったんですよ?それがなくなるなんて、寂しくて干からびそうです」

出来るだけ軽く聞こえるように言った。冗談にすり替えた。本音を包んで、誤魔化した。

いつもみたいに「バカじゃないの」って、怒ってくれたら良かった。———それなのに。

「……なにそれ」

ふわっと、羅華が笑った。

彼女が那色の前で笑うのは2回目。一度目は拗ねた那色を揶揄うような笑いだった。

けれど今は違う。眉の力も抜けていて、目元が柔らかくて。ちゃんと自然な、きれいな笑顔だった。

それだけで、心のどこかがじんと温かくなった。


——やっぱり、笑顔の方がずっと似合う。

この人にはもっと笑っていて欲しいと思った。

そばにいよう。ただ安らぎを与えられる存在として。これ以上、羅華の寂しさが大きくならないように。


そしてできることなら、誰よりもその笑顔の理由に、自分がなれるように。


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