蜜味センチメンタル
「ゴリゴリの縁故入社なんで、こういう誰が聞いてるか分からない場所ではあんまり言いたくないんです。すみません」
「…そうなんだ…」
那色の言った理由に、少しだけ不安が晴れる。すると会話を見守っていた大和が羅華に話しかけた。
「羅華ちゃん。何か食べる?それが適当にお酒作ろうか?」
「あ…じゃあカルーアミルクを。あと軽くつまめるものもらえますか?」
「ん。分かった」
大和が羅華の注文通りのものを作るため少しだけその場を離れる。
「…あの、羅華さん、」
那色が何かを言いかけた時、不意に後ろの席から声が上がった。
「那色くーん!ちょっとこっち来てくれない?」
声をかけてきたのは女の声。那色は羅華から視線を逸らし、「すみません」と言い残して彼を呼んだ席の方へ歩み寄った。
「……」
その背中を黙って見送る。言いようのない寂しさに、羅華は言葉を失った。
「あれ、那色目当てのお客さん」
戻ってきた大和が、氷の入ったグラスを揺らしながらぽつりとつぶやく。
カルーアベースの上にふんわりとミルクを注ぎながら、その視線はカウンターの向こう、那色の背中を追っていた。
「…どうしてそれを私に?」
「随分と気にしてるように見えたから」
グラスを受け取りながら、羅華は少し睨む。大和は薄い笑みを浮かべていた。
「あいつ、愛想いいから基本誰にでもあんな感じだけど、俺が見る限り羅華ちゃんに対してだけは、ちょっと違うよ」
「…なにが?」
「距離の詰め方とか、目の向け方とか。そういうの全部」
くす、と苦笑する。
「ここだけの話ね。羅華ちゃんと会えなくて、寂しそうだったよ」
羅華は何も言えずに、ただグラスの中を見つめる。
こぼすように言われたその言葉が、妙に胸に沁みた。