イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ？」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど！？

　次の日。昇降口で「日直だああああ」と叫んだ友達の日葵は職員室に直行していった。
　いつもうっかりしている日葵の背中に「転ぶなー」と声をかけつつ、上履きをはく。
「おはよう。百里」
　びくり、と肩が震えた。
　後ろを見上げると、式見が靴を下駄箱にしまっていた。
　と、言うより、今。
「なんで、名前」
「誰もいないよ」
　きょろきょろと辺りを確認するが、日葵が「日直じゃん、今日っ」と大騒ぎしている間に、みんな教室に行ってしまったらしい。
　いるとしても、少し離れた廊下で立ち話している生徒がちらほらいるだけで、下駄箱の周りには誰もいなくなっている。
「だから、いいでしょ」
「そんなに名前にこだわらなきゃいけないのかな、友達って」
「形から入るタイプだから」
　確かに、こいつは友達全員、名前呼びしているかもね。
　そうか。私が小二のころ、わざわざ〝今日から木蓮くんじゃなくて、式見呼びにするから〟って宣言したの気にしてんのかな。
　思春期だから、今ごろ繊細な心に響いてきたか――いや、こいつが？
　いつもヘリクツばっかで、気遣いも満足にできなさそうな式見木蓮が？
「そういえばさ。今度の土曜日遊びに行こうよ。友達なんだしさ」
「またなにか企んでるの」
「というか、百里に相談したいことがあってさ」
「相談って。今ここですればいいでしょ」
「人に聞かれちゃだめでしょ。相談なんだから」
　私はあんたに名前呼びされてるのを誰かに聞かれたくないんだけど。
「そういうわけだから。土曜日の十時ね。百里の家に迎えに行くから、オシャレして来てね」
　そう言って、式見は教室に走って行った。
　オシャレって。
　なんで私が式見のために、オシャレしなくちゃいけないのかな。
　でも、ちゃんとセンスのある服を着ていかないとまたからかわれそうだしなあ。
　式見はどんな服だと納得してくれるんだろう。
　あいつの普段着って、どんなのだったっけ。
　過去の記憶を探りながら廊下を歩いて行く。
　――キーンコーンカーンコーン。
　チャイムの音。ずいぶん、下駄箱でうだうだやってしまっていたらしい。
　……ッハ！　待って。私は今、何を考えてたんだろう。
　式見のために真剣にお洋服のコーディネートを考えてなかった？
　これが、あいつの狙いなんだ。
　今度は『ファッションチャック・ドッキリ』をするつもりなんだ！
　ううう、負けない！
　ぜったいに可愛いコーディネートを完成させて、あいつをビックリさせてやるんだから！