イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?
スターアニスの願いごと
今度の土曜十時。式見と遊ぶ約束をしてしまった。これは一大事だ。
なんとかして、オシャレをしないといけないぞ。
でも、これには問題があった。
私の部屋には可愛い服も、かっこいい服も、エレガントな服も、ポップな服もないのだ。もちろんファッション雑誌なんて読んだこともないし、メイク道具もない。
まずい。現時点の土曜十時は、負け確定。
式見に服装をからかわれる未来しかみえない。
なんとかしないと。でも、どうすればいいんだ。
私の友達は、私と同じような服装の子しかいない。
アニメや漫画だったら、ここで神のようなセンスの持ち主が現れて私をキュートにメイクアップしちゃって式見をギャフンを言わせられるんだろうけれど。
これは現実なんだもんね。
どうすれば、式見をアッと言わせることができるのかな……。
財布を片手に、本屋でぼうぜんと棚を見つめる私。
同年代くらいの子が買うようなファッション雑誌を手に取ってみるけれど、どうもピンとこない。
「こんな服装、できたらいいけど。でも私にはぜったい似合わないもんなあ」
「花井。なにやってんの。そんなところで」
名前を呼ばれ一瞬、式見かと思ったけれど、聞き覚えのある声に息をつく。
「柳原くんか。驚かせないでよ」
「いや、そんなつもりなかったんだけど。ずいぶん驚いてたな」
柳原くんは大きなロゴのついた黒いキャップをかぶり、オーバーサイズ気味の白いティーシャツに黒レギンス。そして、厚底のスニーカー。
トレンド全部盛りと言った服装で、買う予定らしい漫画本を持っていた。
保育園の年少から一緒だけど、中学に上がってから私服の趣味がずいぶん変わったらしい。
「……オシャレじゃん」
「おお、小遣い全部服につぎ込んでんだ。モテたいから」
正直者なところは変わってないみたいで安心したよ。
何だかオシャレ過ぎて、別人みたいに思えたから。
「中学に行って変わったねえ」
「花井は変わってないな。ぜんぜん」
「だから、今変わり方を模索してたの。というか、今度の土曜日だけ変われればいいんだけど」
「今度の土曜日だけでいいの?」
「柳原くんみたいにオシャレが趣味ってワケじゃないからさ。オシャレにつぎ込む予定のお金もないし」
柳原くんは「うーん」とうなってから、さげているサコッシュからスマホを取り出した。
そして、あるアプリをタップする。
「これ見て」
「何これ」
「VRって知ってる? ヴァーチャルリアリティ。これがそれ。ここで、色んな服が試せる。ここじゃ何だから、一回店出るか」
柳原くんは「漫画、レジに通してくる」と言って、先にカウンターの方へ向かった。
店の前で待っていると、すぐに柳原くんが走ってきた。
近くの公園で、さっきの話の続きをする。
「それじゃあ、花井。そこに立ってみて」
言われたとおりにすべり台の前に立つ。すると柳原くんがスマホを私に向けた。
「じゃあ試しに、俺が花井をコーディネートしてやるよ」
「そんなに簡単に出来るの?」
「うん。ちょい待ってな」
スッスッと、手慣れたようすでスマホをスワイプしていく柳原くん。
私はデッサンモデルにでもなったかのような気分でその場に立ち尽くしていた。
するとわずか三分ほどで柳原くんが「できたぞ」と声を上げた。はやっ、もうできたの?
「これでどうかな。けっこういい感じだぞ」
柳原くんのスマホにはすべり台の前にたつ緊張した顔の私の姿があった。
スマホのなかの私は、着たこともないオシャレな服を着ていた。
エメラルドグリーンのワンピースに白いボタニカル模様のジレをあわせたコーデ。
私なんかが見れば、一目で「オシャレ!」って思っちゃうような素敵な合わせ方だ。
「すごいね。この、重ね着……ってやつ? 上級者って感じ」
「レイヤードコーデって言うんだよ」
靴もくるぶしたけの革靴で可愛い。スマホ画面には、コーデアイテムの説明文ものっていて、そこに〝オックスフォードシューズ〟って書いてある。名前もオシャレ。
「でもさ。どれも高そうな服だし、私には買えないかな」
「大丈夫。全部で三千円くらいだよ」
「はっ? 安くない? 詐欺?」
「んなバカな。そうだな。今日が水曜日だから、今すぐレンタルすれば金曜日に届くよ」
「これ、レンタルなのっ?」
「そう。汚したり破かない限りは、ブラントクラスにもよるけど一律料金だよ」
便利な世の中なんだなあ、なんておばあちゃんみたいなことを思っちゃったよ。
家に帰ると、さっそく親に相談してから、柳原くんおすすめコーデをレンタルしてみた。
やがてあっという間に金曜日。夕方ごろにレンタルしたお洋服が届いた。
待ちわび……てはないんだけど。服には興味がないから。
でも、一応着てみてサイズが大丈夫かどうかは確認しないといけない。
ダンボールをていねいに開き、中のお洋服に着替えてみる。
そして姿見で確認。うん。サイズもシルエットもいい感じ。靴のサイズも問題ない。
あとは、超難関のメイクだ。
なぜか柳原くんはメイクにも精通していて、あまった試供品を大量にくれた。
メイク指南もしてもらったので、明日の本番に向けて通し練習でもしておくか。
今日はパートが長引いてるからって、お母さんが帰ってくるまであと一時間ほどある。
ちゃっちゃと練習しちゃおう。
「えーっと、このメイク動画だっけ。柳原くんがわかりやすいからって教えてくれたやつ」
リビングのテレビで動画サイトを開き、教えてもらったチャンネルを開く。
えっと、まず洗顔をして化粧水で肌にうるおいをあたえて、乳液を水分を閉じ込める。ふむふむ。基本的なことから教えてくれるのって、ありがたいね。
それから、化粧下地を塗るのね。
「えっと、真珠の粒くらいの大きさ……ってこんなにっ?」
これを塗るって、けっこうな量がありそうなんだけど。
とりあえず、塗ってみる。やっぱりべたべたして気持ち悪い。
鏡で見てみると、なんだかメイクと言うより、ラクガキみたい。
何だか自肌の色と下地の色があってなくて不自然だし、違和感がある。
「これでいいのかな……。とりあえず、続きはっと」
ファンデーション、チーク、リップ、アイブロウ、マスカラ。
動画にそって一通りやってみたけど……だめだ。どう考えても、経験が足りない。
がんばってみたけど、動画のおねえさんのようにはならない。
ファンデーションもところどころムラがあるし、眉毛は左右長さが違う。
やばくないか。メイク、だめだめだよ。
これじゃあ、明日。
まさしく〝どんな顔して式見に会えばいいんだ〟ってやつだよ!
「変な顔でしか会えない……。間違いなくバカにされるよお」
「ただいまあ。ももちゃん、帰ってるー?」
ぎゃー! しまった、時計を見てなかったああああ。
メイクを落とさなきゃ、お母さんに失敗メイクを見られてしまう!
いや、まずはメイクの試供品で散らかった現場を片付けるべき?
ああああ、そんなこんなでお母さんがテレビのあるリビングに入ってきてしまった。
「あら。何してんの」
「け、化粧の練習と言うか」
「えっ」
「えっ」
ジッと流れる二人の時間。と、時が止まってる?
お母さんは静かに私の顔を見つめていた。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「へ、下手だわ」
「わかっとるんじゃああああ」
改めて言われなくてもわかってるもん!
でも、初めてなんだから仕方ないじゃん!
「これ、試供品? 誰かにもらったの?」
「柳原くんに……」
「へえ。男の子もメイクする時代だもんねえ。やたらファンデの試供品があるけど、あんたの肌色のやつがないようだけど」
「えっ。そんなに種類があるんだね」
「そりゃそうよ。買いに行く?」
「いいいいいいのっ?」
すると、お母さんは嬉しそうにほほえんだ。
「お洋服もレンタルしていたみたいだしね。女の子なんだから、少しは気を使いなさいよ」
それって、お母さん。
オシャレにあまり興味ない私を心配してたってことだよね……。
なんだか、すみません……。
なんとかして、オシャレをしないといけないぞ。
でも、これには問題があった。
私の部屋には可愛い服も、かっこいい服も、エレガントな服も、ポップな服もないのだ。もちろんファッション雑誌なんて読んだこともないし、メイク道具もない。
まずい。現時点の土曜十時は、負け確定。
式見に服装をからかわれる未来しかみえない。
なんとかしないと。でも、どうすればいいんだ。
私の友達は、私と同じような服装の子しかいない。
アニメや漫画だったら、ここで神のようなセンスの持ち主が現れて私をキュートにメイクアップしちゃって式見をギャフンを言わせられるんだろうけれど。
これは現実なんだもんね。
どうすれば、式見をアッと言わせることができるのかな……。
財布を片手に、本屋でぼうぜんと棚を見つめる私。
同年代くらいの子が買うようなファッション雑誌を手に取ってみるけれど、どうもピンとこない。
「こんな服装、できたらいいけど。でも私にはぜったい似合わないもんなあ」
「花井。なにやってんの。そんなところで」
名前を呼ばれ一瞬、式見かと思ったけれど、聞き覚えのある声に息をつく。
「柳原くんか。驚かせないでよ」
「いや、そんなつもりなかったんだけど。ずいぶん驚いてたな」
柳原くんは大きなロゴのついた黒いキャップをかぶり、オーバーサイズ気味の白いティーシャツに黒レギンス。そして、厚底のスニーカー。
トレンド全部盛りと言った服装で、買う予定らしい漫画本を持っていた。
保育園の年少から一緒だけど、中学に上がってから私服の趣味がずいぶん変わったらしい。
「……オシャレじゃん」
「おお、小遣い全部服につぎ込んでんだ。モテたいから」
正直者なところは変わってないみたいで安心したよ。
何だかオシャレ過ぎて、別人みたいに思えたから。
「中学に行って変わったねえ」
「花井は変わってないな。ぜんぜん」
「だから、今変わり方を模索してたの。というか、今度の土曜日だけ変われればいいんだけど」
「今度の土曜日だけでいいの?」
「柳原くんみたいにオシャレが趣味ってワケじゃないからさ。オシャレにつぎ込む予定のお金もないし」
柳原くんは「うーん」とうなってから、さげているサコッシュからスマホを取り出した。
そして、あるアプリをタップする。
「これ見て」
「何これ」
「VRって知ってる? ヴァーチャルリアリティ。これがそれ。ここで、色んな服が試せる。ここじゃ何だから、一回店出るか」
柳原くんは「漫画、レジに通してくる」と言って、先にカウンターの方へ向かった。
店の前で待っていると、すぐに柳原くんが走ってきた。
近くの公園で、さっきの話の続きをする。
「それじゃあ、花井。そこに立ってみて」
言われたとおりにすべり台の前に立つ。すると柳原くんがスマホを私に向けた。
「じゃあ試しに、俺が花井をコーディネートしてやるよ」
「そんなに簡単に出来るの?」
「うん。ちょい待ってな」
スッスッと、手慣れたようすでスマホをスワイプしていく柳原くん。
私はデッサンモデルにでもなったかのような気分でその場に立ち尽くしていた。
するとわずか三分ほどで柳原くんが「できたぞ」と声を上げた。はやっ、もうできたの?
「これでどうかな。けっこういい感じだぞ」
柳原くんのスマホにはすべり台の前にたつ緊張した顔の私の姿があった。
スマホのなかの私は、着たこともないオシャレな服を着ていた。
エメラルドグリーンのワンピースに白いボタニカル模様のジレをあわせたコーデ。
私なんかが見れば、一目で「オシャレ!」って思っちゃうような素敵な合わせ方だ。
「すごいね。この、重ね着……ってやつ? 上級者って感じ」
「レイヤードコーデって言うんだよ」
靴もくるぶしたけの革靴で可愛い。スマホ画面には、コーデアイテムの説明文ものっていて、そこに〝オックスフォードシューズ〟って書いてある。名前もオシャレ。
「でもさ。どれも高そうな服だし、私には買えないかな」
「大丈夫。全部で三千円くらいだよ」
「はっ? 安くない? 詐欺?」
「んなバカな。そうだな。今日が水曜日だから、今すぐレンタルすれば金曜日に届くよ」
「これ、レンタルなのっ?」
「そう。汚したり破かない限りは、ブラントクラスにもよるけど一律料金だよ」
便利な世の中なんだなあ、なんておばあちゃんみたいなことを思っちゃったよ。
家に帰ると、さっそく親に相談してから、柳原くんおすすめコーデをレンタルしてみた。
やがてあっという間に金曜日。夕方ごろにレンタルしたお洋服が届いた。
待ちわび……てはないんだけど。服には興味がないから。
でも、一応着てみてサイズが大丈夫かどうかは確認しないといけない。
ダンボールをていねいに開き、中のお洋服に着替えてみる。
そして姿見で確認。うん。サイズもシルエットもいい感じ。靴のサイズも問題ない。
あとは、超難関のメイクだ。
なぜか柳原くんはメイクにも精通していて、あまった試供品を大量にくれた。
メイク指南もしてもらったので、明日の本番に向けて通し練習でもしておくか。
今日はパートが長引いてるからって、お母さんが帰ってくるまであと一時間ほどある。
ちゃっちゃと練習しちゃおう。
「えーっと、このメイク動画だっけ。柳原くんがわかりやすいからって教えてくれたやつ」
リビングのテレビで動画サイトを開き、教えてもらったチャンネルを開く。
えっと、まず洗顔をして化粧水で肌にうるおいをあたえて、乳液を水分を閉じ込める。ふむふむ。基本的なことから教えてくれるのって、ありがたいね。
それから、化粧下地を塗るのね。
「えっと、真珠の粒くらいの大きさ……ってこんなにっ?」
これを塗るって、けっこうな量がありそうなんだけど。
とりあえず、塗ってみる。やっぱりべたべたして気持ち悪い。
鏡で見てみると、なんだかメイクと言うより、ラクガキみたい。
何だか自肌の色と下地の色があってなくて不自然だし、違和感がある。
「これでいいのかな……。とりあえず、続きはっと」
ファンデーション、チーク、リップ、アイブロウ、マスカラ。
動画にそって一通りやってみたけど……だめだ。どう考えても、経験が足りない。
がんばってみたけど、動画のおねえさんのようにはならない。
ファンデーションもところどころムラがあるし、眉毛は左右長さが違う。
やばくないか。メイク、だめだめだよ。
これじゃあ、明日。
まさしく〝どんな顔して式見に会えばいいんだ〟ってやつだよ!
「変な顔でしか会えない……。間違いなくバカにされるよお」
「ただいまあ。ももちゃん、帰ってるー?」
ぎゃー! しまった、時計を見てなかったああああ。
メイクを落とさなきゃ、お母さんに失敗メイクを見られてしまう!
いや、まずはメイクの試供品で散らかった現場を片付けるべき?
ああああ、そんなこんなでお母さんがテレビのあるリビングに入ってきてしまった。
「あら。何してんの」
「け、化粧の練習と言うか」
「えっ」
「えっ」
ジッと流れる二人の時間。と、時が止まってる?
お母さんは静かに私の顔を見つめていた。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「へ、下手だわ」
「わかっとるんじゃああああ」
改めて言われなくてもわかってるもん!
でも、初めてなんだから仕方ないじゃん!
「これ、試供品? 誰かにもらったの?」
「柳原くんに……」
「へえ。男の子もメイクする時代だもんねえ。やたらファンデの試供品があるけど、あんたの肌色のやつがないようだけど」
「えっ。そんなに種類があるんだね」
「そりゃそうよ。買いに行く?」
「いいいいいいのっ?」
すると、お母さんは嬉しそうにほほえんだ。
「お洋服もレンタルしていたみたいだしね。女の子なんだから、少しは気を使いなさいよ」
それって、お母さん。
オシャレにあまり興味ない私を心配してたってことだよね……。
なんだか、すみません……。