【番外編】橘さん、甘すぎ注意です

橘さんの溺愛からは逃げられない

国賓警護の任務で、航太は一週間、関西に泊まり込みだった。
昼夜を問わず続く緊張と気の張りつめたスケジュール。

会えない日々の中、紗良の声も顔も、ふとした仕草まで頭から離れなかった。
──今すぐにでも触れたい。

けれど、あの世界にいる間は、どんな感情も押し殺さなければならない。

だからこそ、ようやく東京に戻り任務から解放された今、
彼の中に溜まっていた想いは、一気に堰を切ったようにあふれ出す。

玄関のドアが閉まる音とほぼ同時に、背中が壁に押しつけられた。

「ん……!」

顔を上げる間もなく、唇を塞がれる。
荒くもなく、けれど逃げ場もない――熱のこもったキス。

「……っ、航太く……」

返事の代わりに、もう一度。
甘く、深く、紗良の形を確かめるように、キスは何度も重ねられる。

どこかで聞いたような“壁ドン”の姿勢で、腕の内側にすっぽり収められて、紗良の膝から力が抜けた。

「ちょ、っと、だめ……もう……」

「力、抜けすぎ。……ちゃんと立ってろよ」

「無理……責任取って、ちゃんと支えて……」

ずるずると足元から崩れ落ちるようにしゃがみ込む紗良を、航太は片眉を上げて見下ろした。

「……だめでしょ?」

囁く声は低く甘く、わざと耳元に落とされる。

「ちゃんと言うこと、聞こうね」

そう言って、ためらいなく両腕を差し入れると、とろけて力の抜けかかった紗良の身体をぐっと引き上げて立たせる。
その間も唇は何度も触れ合い、離れてはまた重なる。

「か、航太……っ」

自分の足で立っているはずなのに、膝は震え、視線もまともに合わせられない。
顔を真っ赤にして、紗良は息を呑んだ。

「……そんな顔されると、もっとしたくなるだろ」

耳元に唇がかすめるたび、身体がぴくりと反応する。
手のひらに包まれているみたいに、全身が彼のペースに飲み込まれていく。

「や、だって、恥ずかし……」

言い終わる前に、またキス。
それも深く、今度は舌先で甘く弄ばれる。

「……っ、ん、ふ、ぁ……」

どうしようもなく熱くて、どうしようもなく嬉しくて。
けれど心は戸惑いと羞恥でいっぱいで、紗良は目を潤ませながら息を詰めた。

その様子がよほど可愛らしかったのか、航太は小さく笑いながら彼女の腰を抱き寄せる。

「さ、ソファ行こうか。……立ってられないんだろ?」

耳に落ちる声は優しいのに、どこか意地悪くて、また胸がきゅうっとなった。
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