私の愛した彼は、こわい人
第二章
「こっちだ」
私の手を引いたまま、神楽オーナーはアパートの裏へ回り込む。
見覚えのある黒い車が見えた。アルファードだ。
キーが解錠され、二人で乗り込む。
息は乱れ、息つく間もなく車が発進した。
車内は本当に静かで。呼吸を整える二人の吐息と、激しい心音が体内で響くのみ。
勢いに任せて逃げて来ちゃった。
心配も拭えないけれど、今は安堵感の方が勝っている。
「あの。神楽オーナー、ありがとうございます」
「……いいんだ」
オーナーは無表情で運転している。その横顔は、どことなく暗い。
車は大通りを走り続け、ナビを確認すると横浜方面からどんどん離れていった。
この状況に、私の心臓はいつまで経っても忙しなく唸り続ける。タクトを置いてきた現実に対し、どうしようもない不安がよぎった。
いつもなら、あの御守りを握りしめて気持ちを落ち着かせるのに。今に限っては、私の手元に大切なものがない。
無意識に大きなため息が漏れる。
すると、しばらく無言だったオーナーが静かに口を開いた。
「どうした」
チラリと横目で私を見るも、オーナーはすぐに視線を前に戻す。
「アパートに、御守りを置いてきてしまって」
「ああ。あの青い御守りか」
「私が四歳のときからずっと持っているんです」
「ずっと。肌身離さずか」
「はい。私を助けてくれた人からもらった大切なもので……」
その話を口にした瞬間、幼い頃の記憶が一気に蘇る。
気弱だった私を救ってくれた、八歳上のリュウお兄さん。当時四歳だった私にとって彼はあまりにも大きい存在だった。
彼のことは今でも忘れられない。考えると胸があたたかくなる。
私の手を引いたまま、神楽オーナーはアパートの裏へ回り込む。
見覚えのある黒い車が見えた。アルファードだ。
キーが解錠され、二人で乗り込む。
息は乱れ、息つく間もなく車が発進した。
車内は本当に静かで。呼吸を整える二人の吐息と、激しい心音が体内で響くのみ。
勢いに任せて逃げて来ちゃった。
心配も拭えないけれど、今は安堵感の方が勝っている。
「あの。神楽オーナー、ありがとうございます」
「……いいんだ」
オーナーは無表情で運転している。その横顔は、どことなく暗い。
車は大通りを走り続け、ナビを確認すると横浜方面からどんどん離れていった。
この状況に、私の心臓はいつまで経っても忙しなく唸り続ける。タクトを置いてきた現実に対し、どうしようもない不安がよぎった。
いつもなら、あの御守りを握りしめて気持ちを落ち着かせるのに。今に限っては、私の手元に大切なものがない。
無意識に大きなため息が漏れる。
すると、しばらく無言だったオーナーが静かに口を開いた。
「どうした」
チラリと横目で私を見るも、オーナーはすぐに視線を前に戻す。
「アパートに、御守りを置いてきてしまって」
「ああ。あの青い御守りか」
「私が四歳のときからずっと持っているんです」
「ずっと。肌身離さずか」
「はい。私を助けてくれた人からもらった大切なもので……」
その話を口にした瞬間、幼い頃の記憶が一気に蘇る。
気弱だった私を救ってくれた、八歳上のリュウお兄さん。当時四歳だった私にとって彼はあまりにも大きい存在だった。
彼のことは今でも忘れられない。考えると胸があたたかくなる。