私の愛した彼は、こわい人
 車はなだらかに走り続け、東京の中心へと誘われていく。

「でもその数ヶ月後、リュウお兄さんは知人の家に引き取られることになりました」

 別れるのがすごく寂しくて悲しくて、離れたくなかった。
 養護施設は子どもたちの入れ替わりがとても激しい。何年も施設で生活する子もいれば、数日でいなくなる子だっている。それはリュウお兄さんも例外じゃない。

「二度とお兄さんと会えなくなるのが本当につらかったです。大したお礼もできなかったのがもどかしくて、私、ドラゴンの折り紙を折って渡したんですよ。せめてもの感謝の気持ちとして」
「ああ……」

 ひたすら私が思い出話を語っているだけなのに、ずっと真剣に聞いてくれている。どうにも嬉しくて、私の話は止まらない。

「支援員さんに教えてもらいながら一生懸命折ったんです。あんまり上手にできたとは思えないけど、リュウお兄さん、ちゃんと受け取ってくれたんですよ。『ありがとう』と言って。嬉しかったです」
「リュウって名前だからドラゴンの折り紙を折ったのか」
「そうです」
「四歳児にしては頑張ったな」

 なんだか恥ずかしい。私はうつむき加減になる。

「最後まで優しい人でした。別れ際『幸せになれよ』と言ってくれたんですが……。リュウお兄さんが今の私を見たらきっと呆れちゃいますね」
「いや──」

 オーナーは語尾を強くしてこんな風に言葉を連ねた。

「これから幸せになればいいんだよ」

 サングラスの向こうで彼の瞳が束の間揺れていた。
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