私の愛した彼は、こわい人
オーナーのふてぶてしい態度にスタッフ全員の顔が凍りつく。
だが阿川店長だけは違った。
さすが三十年間この道一筋で生きてきたベテランエステティシャン。毅然とした態度でオーナーに受け答えをする。
「お待たせしました。先月の売り上げ達成率は全体で百・一パーセントです」
「内訳は」
「新規契約が百万、都度払いが四十万、物品販売が百十万です」
「契約と物販それぞれの達成率を」
「契約達成率は更新含め百二十パーセント、物販は八十パーセントです」
神楽オーナーは眉間にしわを寄せ、見るからに不満げだ。
「商品の売れ行きが悪いな」
「いえ、そんなこともないですよ。先月はホーム機器を五台ほど販売しました」
「化粧品はどうなんだよ。フェイシャルの客には売らねぇの」
「それは」
鋭い指摘に、さすがの店長も言葉に詰まってしまう。
ベル・フルールでは美容機器だけでなく、化粧品の販売にも力を入れている。のだが、ある理由で上手くいっていない。
「その件に関して、私からお話してよろしいでしょうか」
私が手を挙げると、神楽オーナーは上体を前に出した。
「……お前。鈴本か」
なぜか私の名札をジロリと見てくる。
「下の名前は」
「え? アスカと言います」
「鈴本アスカ……。そうか」
なにかを思うようにオーナーは遠くを見つめると、再び私に視線を戻した。
えっと? なんでしょう、そのリアクションは。なぜ私のフルネームを? スタッフの名前に興味ないとおっしゃいましたよね?
だが阿川店長だけは違った。
さすが三十年間この道一筋で生きてきたベテランエステティシャン。毅然とした態度でオーナーに受け答えをする。
「お待たせしました。先月の売り上げ達成率は全体で百・一パーセントです」
「内訳は」
「新規契約が百万、都度払いが四十万、物品販売が百十万です」
「契約と物販それぞれの達成率を」
「契約達成率は更新含め百二十パーセント、物販は八十パーセントです」
神楽オーナーは眉間にしわを寄せ、見るからに不満げだ。
「商品の売れ行きが悪いな」
「いえ、そんなこともないですよ。先月はホーム機器を五台ほど販売しました」
「化粧品はどうなんだよ。フェイシャルの客には売らねぇの」
「それは」
鋭い指摘に、さすがの店長も言葉に詰まってしまう。
ベル・フルールでは美容機器だけでなく、化粧品の販売にも力を入れている。のだが、ある理由で上手くいっていない。
「その件に関して、私からお話してよろしいでしょうか」
私が手を挙げると、神楽オーナーは上体を前に出した。
「……お前。鈴本か」
なぜか私の名札をジロリと見てくる。
「下の名前は」
「え? アスカと言います」
「鈴本アスカ……。そうか」
なにかを思うようにオーナーは遠くを見つめると、再び私に視線を戻した。
えっと? なんでしょう、そのリアクションは。なぜ私のフルネームを? スタッフの名前に興味ないとおっしゃいましたよね?