私の愛した彼は、こわい人
 帰り際、裸足の私を哀れむようにユウキさんがヒールを貸してくれた。
 オーナーの家に私がお邪魔すると知ったユウキさんはずいぶんと機嫌がよくなっていて。「また来てくれても構わないわ」と言い、オアシスの会員証まで渡してくれた。
 結構厳しい人に感じたけれど、根は優しいのかも。

「行くぞ」

 バーを後にし、神楽オーナーに連れられたのは西新宿の高層マンションだ。二十階部分にある2DKの部屋がオーナーの自宅だそう。

 オーナーはマンション駐車場に車を停め、そこからエントランスへ抜ける扉のロックを解除した。エレベーターホールのセキュリティを通過し、さらにフロアでのロックを抜け、やっと部屋前に行き着いた。
 マンションの住民や関係者以外入るのはほぼ不可能だろう。私とタクトが暮らしていたアパートなんて、オートロックすらない普通の賃貸だった。いくつものお店を経営しているオーナーだけあって住む世界が違うんだな……。

「入れ」

 カード式のルームキーをドアノブの上に翳して解錠すると、オーナーは玄関をゆっくりと開けた。部屋の中からは空気のこもった匂いと、ミント系の香りが漂う。

「お、お邪魔します」

 ちょっと、緊張。誘いに乗っておいて、未だに動揺してしまう。
 オーナーはスタスタと廊下の奥へ進み、部屋でダークスーツを脱いでいた。

「なに突っ立ってんだよ。さっさと上がれ」
「は、はい!」

 震える手でヒールを脱ぎ、そろりと部屋へ向かう。
 リビングには三人掛けのソファと、大きい壁掛けテレビと、こじんまりとしたテーブルがあった。シーリングライトは控え目な明るさだ。
 開けたカーテンの向こう側に広がるのは、東京の夜──絶景が広がっていた。

「わあ。綺麗……」

 深夜にも関わらず新宿の街は絶えず光り輝き、立ち並ぶビルや道路にダイアモンドをばら撒いたかのような美しさを描いていた。
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