私の愛した彼は、こわい人
 私が頭を下げると、彼はそっと肩に左手を添えてきた。

「……すまん。言いかたがキツくなった。そんな顔しないでほしい。お前は笑っている方がいい」
「えっ」

 不意をつかれ、胸がキュッとなった。
 笑っている方がいいだなんて。
 頬が熱い。体も熱い。彼の顔が、見られなくなる。

「これからは安心して暮らせるように、俺がアスカを守る」
「どうして。そこまでして……」
「放っておけないんだよ。目を離したら、アスカがまた変な奴に捕まりそうで」

 もしかして、保護者目線なのかな。同じ施設で過ごしていた仲間として……ううん、兄妹的な感情として? 気にかけてくれているのかな。

「ありがたい提案なのですが、その、守るというのはベル・フルールのオーナーだからですか? 私たちがヒゴロモソウで一緒に過ごした仲だからですか? それとも──」

 私が最後まで疑問を投げる前に、再び彼に体を抱き寄せられた。
 爽やかな香りと、煙草の匂いがフワッと私の全身を包みこむ。
 彼の唐突な行動に、いつもドキドキさせられてしまう。ダメ……もう、心臓が、爆発しそうだ。
 心がときめいて、どうしようもない。

「アスカ。俺のそばにいろ。怖い想いはさせない。悲しい気持ちにもさせない」
「……オーナー……」

 甘い声に、耳の奥まで熱くなっていく。

「俺の家なら安心して暮らせるはずだ。だから、何度だって言う。ずっとここにいろ」

 彼は私の両肩を掴み、おもむろに顔を近づけてきた。こちらをじっと見つめる瞳は真剣そのもので。

 ああ。私、このまま神楽オーナーと……
 彼を受け入れようと、そっと瞳を閉じた──そのときだった。
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