私の愛した彼は、こわい人
 私は一方的にタクトに別れを告げた。手紙を書いて、部屋に置いてきて。連絡先も全てブロックした。けれど、それだけでは不安だった。思い切って番号もメッセージアプリのIDも全部変えた。
 幸か不幸か私は友人が少ないわけで、新しい連絡先を連絡して回るのもそこまで苦労しなかった。
 完全に、タクトとは決別したつもり。
 オーナーがそばにいてくれるから。ユウキさんが後押ししてくれたから。それで決断できたんだ。
 もちろん、タクトが私に拒絶されて怒り狂っているのは想像に容易い。ベル・フルールに押しかけられたらどうしよう。そんな不安も少なからずあった。
 だが、大きな事件は未だ起こっていない。オーナーがサロンの警備を強化してくれたおかげで、万が一のことがあっても大事は避けられる。監視カメラだけじゃなく、不審者などがサロンへ侵入した場合に即警備員が駆けつけてくれるよう手配してくれたのだ。
 オーナーも時間を見つけてはサロンに顔を出してくれる。仕事中は相変わらず厳しくて、萎縮してしまうが。
 色んなことが起きすぎた。そのせいか、近頃疲れやすくなった気がする。たまにめまいもするし……。
 だけど平穏に流れる日常に、心はホッとしている。
 タクトの呪縛から、私は解放されたんだよ──?
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