私の愛した彼は、こわい人
 缶ジュースを飲み干して、彼は小さくため息を吐いた。

「あの野郎からお前を守るためなら、送迎くらい大したことじゃない。スタッフを守ることも、オーナーとしての責務だ」

 私の方を見て、彼は静かにそう言った。
 スタッフを守ることもオーナーとしての責務。
 そっか。うん。たしかに……そうだ。
 当たり前なのに、そのひとことが私の中で引っかかってしまう。
 一週間前、彼にリュウお兄さん本人なのだと打ち明けられたとき──私の中でなにかが芽生えた。彼とキスを交わす寸前になって、心がときめいた。
 あの行動の意味はなんだったのか。ずっと頭の中でぐるぐる回っていたけれど。
 ……なんだ。私の、勘違いだったみたい。
 神楽オーナーにとって、私はベル・フルールのいちスタッフ。その前提を忘れて、一人勝手に期待していた。オーナーと同居をすることになって、舞い上がっていたのかも。恥ずかしい。
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