私の愛した彼は、こわい人
「どうした。寒いのか?」

 震える私の拳を、大きな手が優しく包み込んできた。ぬくもりを感じ、私はハッと彼の顔を見る。
 仕事では決して見られない、優しさで溢れた表情。私の心臓が、ドクドクと高く音を響かせる。気持ちだけは嘘をつけないのが悔しい。

「いえ……寒くないです。お腹が空いてしまいました」

 そうやって、誤魔化した。
 彼はあまり納得した表情を見せなかった。私が「スーパーに寄って食材が買いたいです」と笑ってみせると渋々頷いてくれた。
 幼い頃に憧れていたお兄さんと一緒に暮らすことになるなんて、それだけでも奇跡なんだよ。充分幸せだし、ありがたいと思わなきゃ。
 彼とどうにかなりたいなんて、欲張っちゃダメ。
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