私の愛した彼は、こわい人
「あとは、オレンジジュース」

 私が思いに耽っている隣で、彼は飲料コーナーでオレンジジュースを手に取った。
 一緒に過ごしてきてわかってきた。強面に似合わずどうやらオレンジジュースが好きみたいだ。煙草の後に飲むジュースは泥みたいな味がするらしい。そのまずさがクセになる、と言っていて。どんな味覚をしてるんだろうと心配になる。
 慣れた手つきで一・五リットルのペットボトルをカートに入れる彼を見て、なんだか可愛いと思ってしまった。

「……なんだ?」

 オーナーはチラッと私を見てくる。
 やば。私、たぶんニヤニヤしちゃってるよ。

「な、なんでもありません」
「笑ってるよな?」
「いえ?」
「どうせ俺がジュースばかり飲んでるのが気に食わないんだろ」
「そんなことないですよ! でも……ちょっと、可愛いなって」 
「あぁ、可愛いだと……?」
「すみません! あの、神楽オーナーって意外にお酒は飲まないですよね。そのギャップが素敵ですってことで……」
「悪かったな。俺は甘党だ」 

 堪えきれず私が肩を震わせて笑うと、彼は顔を真っ赤にしていた。
 ただスーパーで買い物をしているだけなのに。彼と一緒にいるとこんなに心が安らぐなんて、不思議だね。
 さっきまでの憂いが嘘みたい。
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