無自覚男子にキュン!
「ちょっと!」
もう少し、前に……!
目の前には同じ制服の学生たちが押し合っている。
容赦のない押し合いに笑っている人も泣きそうな人もいる。
人はそれを青春の始まりと称えるか、青春という名の地獄だと称えるか。
「航くん……!」
「胡桃ちゃん!?」
手を伸ばしても届かない。
でも明らかに声は届いた。
一瞬隙間から見えた航くんは驚いた表情だったけれど、すぐさま私の元へと近寄ろうと動き出してくれた。
人混みに押し潰されそうになり、空気が薄くて酸欠になりそうだ。
「押すなよ!」「邪魔だよ!」様々な言葉が飛び交うなか、私は前に進むことが精一杯だ。
航くんとの距離が2mほどになってようやく航くんの顔がきちんと見えるようになる。
「胡桃ちゃん手!伸ばして!」
「はい!」
元気よく返事をしすぎてしまい、航くんは優しく困ったように微笑んだ。
「お、届いた」
航くんは無邪気な笑顔に変わり、"私たち"を引き込む。
「ちょっと漣さん手痛いわよ!」
「あ!ごめ…!」
「急に引っ張らないでよ…」
「ほんとごめん、このままじゃ前に行けないと思ってつい…」
「名前、名前言わなきゃ驚いちゃうじゃない」
「名前…分からないから」
「…………貝崎 成海よ」