モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
「いや、何でもない」
颯はその先の言葉を飲み込む。彼が何を言おうとしたのか、付き合っていたあかりとてわからないはずはない。敢えて口にしなかったのは、颯の優しさだ。
颯は何でも卒なくこなすのに、ある一定のことだけとことん不器用になる。
付き合っていた時には可愛く映り、そんな颯を好ましく思っていた。
颯が「オレを選べ」と言ってくれなかったことにあかりの心の奥底に何かが沈んでいく。あかり自身も明確には気づいていないくらいのかすかな心の動き。
だが、その瞬間に何故か悟ってしまったのだ。
(もしかしたら私は颯さんより、理貴に……)
その先は強制的に考えることを辞めた。
きっと、好きだと熱心に言ってくれる男が現れて浮かれているだけだ。
颯も――別れてからは違うが――ダイレクトに想いを伝えるタイプではなかったから、理貴の言葉が聞き心地よく響いているだけ。
たった二ヶ月で二年以上惚れていた気持ちが変わることなどあり得ない。
自身の気持ちを打ち消すかのように、あかりは颯に懇願したのだ。
「抱いてください」
と。
喉を鳴らした颯の顔が、一気に男の顔に変わったのを見て、あかりは何故か胸が苦しくて堪らなくなったのであった。