モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています


 悩んだし、苦しかった時もある。辞めたいと思ったことも。
 だが、あかりは警察官の仕事が好きなのだ。
 ポリ公と揶揄され、非常の時に頼られる割に給与も低いし、感謝されるよりも憎まれたり怒鳴られたりすることの方が圧倒的に多いのに。
 それでも、関わりがあった人が前を向けるきっかけだったり、既のところで救われる命と心があったり。悪いことばかりじゃないことも、十年勤めていたあかりはもう知っていた。
 少なくとも、結婚や出産を機に退職を考えないくらいには、警察官として奉職していることに誇りを持っているのだ。

 自分ではない視点でアドバイスをくれた祖父に、あかりは頭を下げる。 

「ありがとう。お祖父ちゃん」
 あかりの言葉に照れた祖父はコーヒーを啜ろうとカップを持ち上げてしかめっ面をした。中身はとっくに空になっている。
「はいはいー」
 様子を見ていたマスターがササッとお代わりのコーヒーを二人分注ぎ、ついでに「サービスだよ」といってあかりの前にパウンドケーキを置く。
「ワシのがない」
 旧知の仲であるマスターは祖父をジロリと一瞥する。
「糖尿になるよ」
「ぐっ……」
 その後の祖父は一切口を開かなかった。あかりににこやかな笑みを送ったマスターが仕事に戻ってからも、祖父は店を出るまでずっと仏頂面でミルクと砂糖をぶち込んだコーヒーを啜っていのだった。 

 
 
 
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