モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

それぞれの明日


 電子タバコを手に取った颯は、充電が切れていることに気付いてチッと舌打ちををする。
 一度席に戻ると引き出しから紙タバコを取り出す。紙のタバコが吸えるのは、二階まで降りなければならない。電子タバコなら各階に吸う場所が設置されている時間短縮になると切り替えたのに、これなら意味がない。
 そう思いながら階段で下に降りる颯だが、自分でもわかっていた。どれだけ時間が短縮になろうと、今日は仕事が手につかないと。


ライター()、忘れた」
 日曜日の昼間である。昼休みも終わったタイミングもあり、喫煙室には颯の他に誰もいなかった。
 紙タバコを咥えた後にライターがないことに気づいた颯だが、取りに戻るのも面倒だ。どうしようか迷っていると、都合よく久保が入ってきた。
「山科。こんなところでサボり?」 
「バカ言うな。今日俺は非番だ。久保、それより火、貸せ」
 久保はライターを投げて寄越すと、颯の向かいに立つ。
「非番なのにご苦労ですね、警部補サマは。今急ぎの案件抱えていないはずなのに」
「……書類が溜まっているんだよ」
 タバコの煙を吐きながら、颯は久保にライターを突き返す。心あらずの同期に久保はイジワルな質問を投げかけた。
「ふうん。……そういえば今日は福田の結婚式だってな」
 ゲホッと咽る音がする。予想通りの反応に、久保は笑い出した。
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