モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています
「……ればよかったのに」
「なんだ?」
「抱いてやればよかったのにって言ったの」
更に顔をしかめる颯をよそに久保も二本目のタバコに火を付ける。久保だけは知っているのだ。あの夜、あかりに求められたことも。それを鉄の意志で颯が断ったことも。
「……アイツの本心じゃ無かった」
「そんなん気付かないフリしたらいいだけだろう。本人がいいって言っているんだし。愛はなかったかもしれないが情はあったはずだ。抱きさえすれば……」
「言うな」
颯はピシャリと久保を黙らせる。三本目のタバコを取り出した颯は、口に咥える前に箱に戻した。
「心を誤魔化しているあかりが居ても意味ないだろう」
久保は驚く。颯は自分が元カノのことを名前で呼んだことに気付いてはいないようだ。付き合っている時すら、久保の前でも頑なに名字で呼んでいた男が漏らした本音は、痛々しくもあり、彼らしくもある。
「マジメだな、お前ら二人とも。……よく似てるよ」
「イヤミか?」
「いんや」