失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 見慣れている男性のスーツ姿だが、光輝さんが着るとやはり特別だ。つい見惚れる。昔から背が高くて顔もいいからモデルや俳優でもなれるんじゃないかと、お世辞抜きで思っていた。

 こうしてヒールを履いた私でも十分な身長差がある 。

 しばらくして駐車場にたどりつき、彼の車まで案内される。国産の有名メーカーのマークがついているけれど、すぐに車種は浮かばない。車高が低いのでおそらくスポーツカーだろう。 ボディカラーはホワイトで、彼のイメージからすると少しだけ意外だった。

 意外、なんておこがましいか。彼のこと、ほぼなにも知らないのに。

「どうぞ」

 助手席のドアを開けられ、おずおずと乗り込む。

「失礼します」

 男性の車に乗るのは初めてではない。なら、この緊張感はなんなのか。

 運転席に座った彼がシートベルトを締めて、エンジンをかける。

 彼の車に乗せてもらう日がくるなんて……。

 でも、最初で最後だ。こんな事態はこれっきり。

 緊張をごまかすように、エンジンをかけた彼におおよそのアパートの場所を伝える。けれどそれ以上会話が続かず、BGMのない車内は予想以上に静かだ。

 近況とか聞く仲でもないし……光希の話題でも振る?

 沈黙に耐えきれずあれこれ逡巡していると、ふとした疑問が浮かんだ。

「そういえば、さっきバーでいた男性、お知り合いだったんですか?」

「いや。まったくの初対面だが」

 すぐにあった返事に目を丸くする。
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