失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「仕事が忙しくて帰りも不規則だからな。呼び出しもいつあるかわからない。慣れない場所での生活だし、別々にした方がいいだろう」

 淡々と説明する光輝さんに、反論したくなったがぐっと抑える。

「わかり、ました」

 だめだ。落胆の色が隠せない。彼はとても忙しい警察官で、仕事が最優先なのは結婚する前からわかっていた。ましてや私たちは、愛し合って結婚したわけじゃない。

 離れたくない、なんて言える立場じゃないよね。

 光輝さんは、どうなんだろう? 私と離れて少しでも寂しいとかそういう感情を抱いていたりするのかな?

 尋ねようとしたが声が出ない。彼の回答を聞くのが怖い。妙な沈黙に包まれていると、彼の形のいい唇が動いた。

「……元恋人の件だが」

「へ?」

「また接触があったら、遠慮なく警察に連絡しろ」

 一瞬、誰の話かと頭がついていかなかったが、すぐに昨日正也に会った件だと結びつける。

「そ、そんなっ。大げさですよ。昨日だって偶然ですし、もう二度と会いません」

 心配してくれるのはうれしい。けれど、それでも一緒に暮らす考えは彼の中にはないんだ。連絡するのも『俺に』とはけっして言わない。

 あたり前だ。彼は忙しいんだから。

『同情か、警察官としての使命感か、正義感からかは知りませんが』

 千恵さんの言葉に、私は膝でぎゅっと握りこぶしをつくる。

 私、どんどんワガママになっていく。いくら夫婦として歩み寄りを見せても、光輝さんが私と結婚した理由を思い返したら、不必要に彼に求めるべきではない。

 体をつなげたから、思い上がっていたんだ。夫婦だから彼にとっては、自然な流れだった。それだけだ。
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