失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 気のせい?

 正也に会ったあの日から、やはり誰かに見られているような、つけられているような感覚が消えない。しかし、正也はもちろんそれらしい人は見つからない。

 ひとりだから不安定になっているのか、それとも光輝さんと離れているせいなのか。

 なにか過敏になっているのかな?

 妙な胸騒ぎが止まらないまま、駅の人ごみの中に紛れていく。今日はこの後、実家に向かう予定にしていた。

 両親や可南子の顔を見たくなった。以前はこんなにも実家に帰りたいと思ったことはなかったのに。可南子が妊娠中で心配なのもある。でもそれ以上に、光輝さんと別に暮らして心細くなっているのかもしれない。

 私、こんなに弱かった?

 内心で焦りを感じながらも、やはり視線を感じて勢いよくうしろを振り返る。その瞬間、不意に男性と視線が交わった。

 不自然にフードをかぶって表情はよく見えない。しかし鋭くこちらを睨むような眼光が視界に映った。反射的に踵を返し、不自然にならない程度の速度で足早に歩を進める。

 背中に嫌な汗が伝う。きっと偶然だ。ただ単に目が合っただけ。

 それにしては、相手ははっきりとこちらを見ていた。知り合い? でも思いあたる節も記憶もない。なら、なんで私を見つめていたのか。

 早鐘を打ちだす心臓を押さえ、念のためにとスマホをバッグから取り出した。

 光輝さんに連絡すべきかどうか迷い、発信をするのはやめる。

 警察なんてもってのほかだ。なにかをされたわけではない。ただ目が合っただけ。

 それでも、直感が告げる。あの人には近づいてはいけない。

 電車内の席が空いていたので、今日は遠慮せず座った。念のため、警戒して辺りに視線を飛ばすが、彼の姿はなかった。

 やっぱり気のせい? 偶然?

 あれこれ思い巡らせながら、スマホをぎゅっと握った。
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