失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 少しだけ彼を怖く感じるのは、見透かされたくないことがたくさんあるからだ。

「なにより」

 押し黙っていると、彼が口火を切る。そのタイミングで車は信号で止まり、こちらを向いた光輝さんと視線が交わった。

「これは経験則だが……異性を口説く際、相手に尋ねるならまだしも、聞かれてもいないのにいちいちフリーだの独身だの先に宣言する人間は、たいていやましいことがあるからだ」

 射貫くような眼差しに、心臓が跳ねる。怒っているのか、心配されているのか。

「気を、つけます」

 抑揚なく答える。

 信号が変わりそうになって、彼が前を向いたのと同時に私は反対側の窓の外に目線をやる。

 なに? 光輝さんがいなかったら、私あの人と連絡先を交換していたとか思われているの?

 信用ない。そんなもの最初からないけれど。

 ムッとしつつ少しこの状況に慣れてきたのもあって、背もたれに体を預ける。

 私ばかり、意識している。だってしょうがない。彼は私の初恋の相手なんだから。

 想いを伝えられないまま、こっぴどく振られたけれど。

 記憶を遮るようにしてスマホを確認するが、やはり連絡はない。焦りと苛立ちを感じ、目を閉じる。

  両親が経営するイタリアンレストラン、カルペ・ディエム の共同経営者であり出資者でもある大林(おおばやし)大二郎(だいじろう)さんが、新規系列店のオープンを目前にすべての事業から手を引くと言いだしたのが昨年末の出来事だった。
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