失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「私ね、この子には父親もいないし、きっと寂しい思いをさせることもあるだろうけれど、そのときはちゃんと寂しいって言ってほしい。きちんとそう口にして伝えてもらえるようにがんばるつもり」

 実家で暮らしているとはいえ、可南子は新卒で採用となった会社の実家近くの支社に身を置き、在宅と出勤のバランスを取りながら働いている。最初からシングルマザーでやっていこうとする決意は生半可な気持ちではできない。

「そう、だよね」

 体を重ねたとき、光輝さんは避妊してくれた。結婚しているし、どちらでもいいと思いつつ揺れる想いを見抜かれたのか、最初から彼に私との子どもを持つ意識がないのか。

『子どもはつくらないでくださいね。それはあなたの役目ではありませんから』

 違う。たとえ千恵さんの言葉が本当だとしても、そもそも私の覚悟が足りなかったんだ。彼の妻としての立場も、彼と一生一緒にいる自信も。

「……私、光輝さんとちゃんと話してみる」

 怖かった。彼との関係を白黒はっきりさせるのが。きっぱりと拒絶された過去が足枷になって、今だけでもいいと言いきかせていた。踏み出すのを、光輝さんと向き合うのを避けていたんだ。

「うん。お姉ちゃんはいつだって私を……誰かを守るために強くいてくれるよね。でも泣いたり甘えたりしたっていいんだから」

「ありがとう、可南子」

 まったく。どちらが姉かわからない。でも、私が強くあろうとしていたのは、可南子が――守りたい存在がいたからだ。今の可南子と同じ。

 おなかも丸みを帯びていて、優しく腹部に触れる可南子はすっかり母親の顔をしていた。
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