失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「光輝さん!」

 そこに女性の声が響く。姿を見なくてもわかる。さっきまで光輝さんと並んで歩いていた竹中千恵さんだ。

「いったい、どうしたんですか?」

 光輝さんの後を追ってきたからか、息せき切っている彼女の視線が私や光輝さんが取り押さえている男性に向けられる。あきらかに異様な事態に、千恵さんは嫌悪感あふれる表情になった。

「これはどういうことですか? もしかして奥さまの男性トラブルかなにか?」

「ち、違います!」

 まさかそんな発想をされるとは思わず、急いで首を横に振る。しかし千恵さんは私を蔑んだ目で見るばかりだ。

「本当に? 過去に奥さまが付き合った相手とかではないんですか?」

「この人とは初対面です」

 まだ先ほどの恐怖が残る中、必死に反論する。この人が何者かなんて私が知りたいくらいだ。

「どうであれ、警察官の妻がトラブル続きなんて……。前も窃盗の現場に奥さまがいったい合わせ、今度はナイフを持った男性ですか。光輝さんの出世にも影響を与えかねないんですよ?」

 千恵さんの言葉に唇を噛みしめる。しかし、彼女は余裕たっぷりに微笑んだ。

「まぁ、もうすぐあなたは光輝さんの奥さんではなくなるんですけれどね。ここ数日、私たちふたりで会っていたんです」

 予想はしていたものの、いざ現実を突きつけられるとショックが隠せない。千恵さんは勝ち誇った笑みを浮かべている。

 やはり光輝さんは私と別れて千恵さんと結婚を――。
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