失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「相手に家を知らせたくない場合、家の近場のわかりやすい場所で別れるのは正解かもしれないが、逆にここで車を降りると、不特定多数の人間に家が歩いてすぐ近くだと知らせることになる。ましてや今は時間が時間だ。あまり勧めはしない」

 そんな視点で考えたことはなかった。たしかにコンビニの外では派手な若者が声をあげて笑い合っていて、煙草を吸いながら談笑しているグループもいる。見た目や雰囲気だけで決めつけるのは失礼だが、治安がいいとは言いづらい。

「危機管理能力がすごいですね。でも今までとくに危ない目に遭ったことは――」

「職業柄、嫌というほどいろいろな犯罪のパターンを見てきた。被害者はほぼみんな『今までとくに危ない目にあった経験はない』と言うんだ」

 私の言葉で返され、目を見開く。わかっている。犯罪に巻き込まれるかどうかは、過去の経験なんてあてにならない。

「すぐ近くなんですけど、アパートまで送ってもらってもいいですか?」

「もちろん」

 やっぱり間髪をいれずに返事がある。光希は私のアパートを知っているし、兄である光輝さんに知られて困るわけじゃない。

 ただ、あまり彼と一緒にいたくないだけだ。親友の兄だと割りきらないといけないのに、さっきから心が乱されてばかりで胸が苦しいのをさとい彼に気づかれるのが怖い。それとも、気づいても知らないふりをしてくれているかな ?

 逆に彼の気持ちはとっくに知っている。こうして私に優しくするのは大事な妹の親友だからで、彼個人としては私を嫌っている。異性として見るどころか、ただのうっとうしいだけの存在だ。淡い恋心が粉々に砕けた日を思い出し、視線を落とす。
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