失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 大林さんとだって私と妹は数回しか会った覚えはないが、 父にはない狡猾さのようなものも併せ持ち、少しだけ怖い印象がある。経営者とはそういうものなのだろうとそのときは納得した。

 料理ひと筋の父とは違い、大林さんが経営手腕を振るって系列店の展開を成功させ、カルペ・ディエムの名がさらに有名になったのはまぎれもない事実だ。今、彼に手を引かれたら、オープン予定だった系列店の後始末をするためにも、両親はカルペ・ディエムを畳むつもりらしい。

 そんな真似絶対にさせない。妹には付き合っている相手がいるし、大林さんの息子と結婚するのは、 私でいいじゃない。しかし、先方が首を縦に振らないのだ。

 なんで? どうして私じゃだめなの?

 もう猶予はないのに……。

「んっ」

 目元を拭われた感覚に瞼を開ける。すぐそばに光輝さんの整った顔があり、心臓が跳ね上がった。

「わっ!」

 思わず叫んで目を瞬かせる。まつげにたまった涙に冷たさを感じ、慌てて目尻を押さえる。

「大丈夫か?」

「す、すみません。大丈夫です」

 いつの間にか意識が飛んでいた。送ってもらった揚げ句、とんだ醜態をさらしてしまった。恥ずかしさに胸が痛い。

 指定したアパートの近くのコンビニに車は停まっていた。

「送ってくださってありがとうございました。ここから、すぐ近くなので」

「待った」

 お礼を告げドアを開けようとすると、光輝さんからストップがかかる。
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