失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 私のために、光希はそこまでしてしまえる。それがわかっているから嫌だった。

「どんな理由でも、光希とお金のやり取りをしてしまったら、その時点で私たちは親友ではなくなる。冗談じゃありません。光希との関係をお金で壊したくない」

 大切な親友はお金では手に入らない。なにより私の家の問題に光希を巻き込みたくない。

 あれも嫌、これも嫌。まるで子どもだ。久しぶりに会った光輝さんに一方的に捲し立て、彼もあきれているだろう。

 でも、もう彼と会うことは――。

「なら、俺と結婚するか?」

 彼から放たれた言葉に耳を疑う。おそるおそる上目遣いに彼をうかがうと、真剣な眼差しとぶつかった。

 次の瞬間、私は思わず噴き出す。

「ふっ……ふふ……ふふふふ」

 つい声をあげて笑う。だって、あまりにも似合わない。

「光輝さんでも、そんな冗談言うんですね」

 どんよりと沈んだ気持ちが、ゆるやかに浮上する。彼の発言を真に受けるほど子どもでもないが、嘘でも嬉しい。

 彼には嫌われていると思っていたから、なおさら。

「ありがとうございます。私、もう少し頑張れそうです」

 諦めずに最後まで大林さんと交渉してみよう。そこで長い時間、光輝さんを引き留めていると気づく。

 謝罪しようとしたら、突然彼の腕の中に閉じ込められた。突然の事態に頭が真っ白になる。

「もう十分に頑張ってる。ひとりで抱え込まなくていい」

 労るような声色と温もりに、涙腺が再び刺激される。

 これは夢だ。全部、自分の願望が見せている幻なんだ。

 瞼が重くて、胸が苦しい。夢ならもう少しだけ見ていたい。厳しい現実に立ち向かうために。
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