失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「あの、気持ちばかりですがお礼の品です」

 お金に関してはなにも口にしなかった。言ったら彼は絶対に受け取らないだろうから。

「気を回さなくてもかまわない。ただ、せっかくだからありがたくいただくよ。ただし現金は必要ない」

「え?」

 思わぬ指摘につい声をあげる。すぐに時間と場所を思い出し慌てて口をつぐんだ。

 手提げ袋の中身はまだ見ていないはずなのに、どうして……。

「わずかに余裕のある紙袋の中で、おそらく丸い缶……が動くとき、転がる際の音が不規則だった。片側になにか封筒のようなものが入っていると考えると、君の性格からしておのずと答えは出てくる」

 彼の洞察力に目を瞬かせていると、光輝さんはゆっくりと紙袋を受け取った。中から封筒を取り出し、返される。突っぱねる余裕もなく受け取り、まだ狐につままれたような私に対し、彼はドアをさらに開けた。

「とりあえず上がっていかないか?」

「あ、いいえ……」

 まさかの提案に、首を横に振る。そんなつもりで来たわけでも、気を使わせたいわけでもない。しかし光輝さんは引かなかった。

「わざわざ来てもらったんだ。……それに、話がある」

 妙な圧を感じるのは気のせいか。そう言われては、無視できない。私もきちんと昨晩の件を謝らないと。しばし迷った末、彼を見る。

「では、お言葉に甘えて少しだけお邪魔します」

「どうぞ」

 彼に促される形で玄関に入る。広い玄関には靴も物もあまりない。
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