失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 靴を脱ぎ、平常心を装いながら彼についてリビングへ向かった。外観やエントランスからある程度は想像していたが、想像以上に広くて綺麗な部屋だった。

 モノトーンでまとめられ、生活感をあまり感じさせない。けれど壁一面を陣取る棚には本がぎっしり並べられている。背表紙の種類で分けられ、彼の几帳面さがうかがえた。

 難しい本がいっぱいある……。

 法律や政治、歴史の本など多種多様だ。仕事関係のものなのか、彼の趣味なのか。

「コーヒーでかまわないか?」

「はい。でもお気遣いなく」

 キッチンから声をかけられ、部屋のあちこちに視線を飛ばしていたのを、ばつが悪く感じた。

 革張りの大きなソファにぎこちなく腰を落とす。

 男の人の部屋に足を踏み入れるのは初めてじゃない。今となっては思い出したくもない相手だけれど彼氏もいた。でも、こんなにも緊張してするのは初めてだ。

 光輝さんは、昨日とは打って変わって私服で、オフホワイトのニットにグレーのカーディガンを羽織り、黒のテーパードパンツを組み合わせている。シンプルだが上品で、無駄なく筋肉がついて引きしまった彼のスタイルのよさを際立たせていた。

 あんまり見たら失礼かもしれない。

 彼に気づかれる前に慌てて目線をはずし、ぎゅっと膝に握りこぶしを作ってうつむく。

 さっきから心臓がうるさい。

 彼にときめくのは、きっと外見がいいからだ。アイドルを見てドキドキするのと同じで、もう光輝さんに対しての気持ちはいっさいない。必死に言い聞かせ、考えが別の角度に移る。
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