失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 私は、大林さんの息子さんになんとか選んでもらって結婚しないとならないんだ。

「ミルクと砂糖は?」

「あ、そのままでかまいません」

 気がつけばカップをふたつ持って光輝さんがそばにやって来ていた。テーブルにカップを置かれ、素直にいただく。色違いのカップだと気づき、なんとなく彼女のものだろうかと勘ぐる。その思考を慌てて打ち消した。

 自分の気持ちがずっと落ち着かない。どうしよう。

 コーヒーのいい香りが鼻をかすめ、ほんの少し口に含むと、苦くもコクのあるコーヒーが舌の上をすべった。

 おいしい。いつも自分が飲んでいるものとはやはり違う。

 わずかに距離を空けて隣に座っている光輝さんの横顔に、今度はしっかりと視線を送った。端整な顔立ちは理知的で人々を惹きつける。彼の言葉には説得力があって、私も何度も励まされた。

『もう十分にがんばってる。ひとりで抱え込まなくていい』

 だからって都合のいい妄想までしてしまうなんて。本来、私たちは顔見知り程度の関係で、こうして光輝さんのマンションで彼の隣に座っているシチュエーション自体が、信じられない。


 この状況が夢ではないのなら、いっそのこと光輝さんにどうしたら大林さんの息子さんが私と結婚する気になるのか、相談してみようか。

 昨日、酔った勢いで彼にいろいろと事情を話した……気がする。記憶は曖昧だが、光輝さんなら建設的な意見をくれるかもしれない。そうしたら未練と言っていいのかわからないこの想いも、きっと断ち切れるだろう。
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