失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「心配しなくても至って健全に交渉は済んだ。ああいうグレーな部分のある人間は、こちらが警察の人間だと知ると警戒して距離を置きたいと自然と考える。やり込めようとしてくるなら、別の方法を考えたがそこまでの気概もしたたかさもないらしい」

 なんでもないかのように光輝さんは冷たく言い放つ。

「話した様子だと、長らく家に引きこもっている息子をどうしても結婚させたかったようだ。どうして君の妹の方に執着したのかはわからないが……。必要なら調べられるが、もうあの男と関わる必要もないだろう」

「はい」

 大林さんの一件で私の家族はおおいに振り回された。わざわざ知ろうとは思わない。あの人との縁が切れたと思うと、少しだけホッとするのと同時に徒労感が押し寄せてくる。

「なにも心配しなくていい」

 不意につぶやかれ、彼を見る。私がまだ不安を感じていると勘違いさせたのか。

「だ、大丈夫です」

「未可子の大丈夫はあてにならないからな」

 さりげなく名前を呼ばれ、動揺する。光輝さんとの結婚を決めた日から彼は私を名前で呼ぶようになった。夫婦になるのだから当然と言えば当然だが、まだ慣れない。

「そんなことありませんよ」

 小さく反論するが、それ以上言葉が続かない。この連休の間に私は彼のマンションに移り住む段取りになっているが、どちらかといえば、これから彼と一緒に暮らす生活の方に緊張している。こんな調子で私の心臓は持つのだろうか。

 逆に光輝さんはどうして、こう次々と事態を受け入れられるのだろう。職業の問題? それとも結婚についてはしっかり割りきっているからなのかな?
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