失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「光輝さん、本当に優しい人なんです。私にだけではなくて誰に対しても……。だから、彼に選んでもらえて、幸せなのは私の方なんです」

 昨日、あの後駐車場の近くで日本語がわからず困っていた若いアジア人男性に光輝さんは世間話をしつつ丁寧に道を教えていた。警察官という職業もあるからか、光輝さんは周りをよく見て手を差し伸べる人だ。私にだけではない。

「ありがとう、未可子ちゃん。でもあなたは特別よ。光輝が行動したのも、そこまでしても未可子ちゃんと結婚したかったからだと思うわ」

 正確には結婚までの順番が異なるので、事情は違うのだがあえて訂正はしない。光輝さんが結婚したかったのは事実だ。その相手に私を選んでくれたのだから、彼や彼の家族の期待には応えたいと心から思えた。


 光輝さんの実家を後にし、マンションで荷ほどきを再開する。契約上、アパートの退去は一か月前までなので、今月いっぱいはアパートを借りている。けれど、この連休を逃したら引っ越しが難しくなるので、少しずつでも荷物を運ぶ話になった。

 でも、そんなすぐに一緒に住まなくてもいいんじゃないの?

 内心でこの状況に抗議する。もちろん光輝さんにも訴えたが、彼は『結婚してどうせ一緒に住むなら早い方がいい。必要なものはこちらで用意するし、部屋も家電もある程度揃っているからそこまでの不便はないはずだ』と淡々と返された。

 その通りなんだけれど、心の準備ができていない。
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