失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 やっぱり自分の好きなようにするのが一番だと思い直し、今に至る。

 けれどその考えは少しだけ揺らぎつつある。

 四月の最終週の土曜日。明日は休みだからか、午後九時を過ぎても店内は多くの人で賑わっていた。

 私たちも基本的に日曜日が休みの職場なので、こうして会うのは土曜日の夜や日曜日が多い。光希は医療事務として病院に勤めている。私はというと、大手食品会社の流通管理部門で働いている。

 主に生産者とやり取りする業務を担っていて、ときには板挟みになったり調整に苦労したり、なかなか苦労は絶えない。

 私がこの道を進んだのは、両親の影響が大きいと思う。

 父と母はレストランを経営している。地産地消を心がけ、生産者とのつながりも大事にする両親を尊敬し、自分の仕事の参考にもしている。

 安定的な供給も重要だが、こだわりや安全性を求める消費者も多い。どちらか一方だけではなく、消費者、生産者どちらにもいい結果をもたらすよう企業努力を惜しまないのがうちの会社の方針だ。

 光希とはまったく異なる職種に就いたけれど、だからこそ仕事の愚痴や弱音などをなんでも言えたりする。

 カウンターに置いてあった光希のスマホが震え、すぐに彼女は出た。

 どうやら婚約者の彼が迎えに来たらしい。

「ごめん、未可子。私、そろそろ行くね」

「うん。遙一(よういち)さんによろしく」

 立ち上がり、自分の分の会計を済ます光希に声をかける。
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