失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「未可子は帰りどうするの? よかったら一緒に送っていこうか?」

「ありがとう。でももう少しいようかな。ちょっと飲みたい気分なの」

 笑顔で告げたが、光希の顔は曇った。おかげで慌てて補足する。

「帰りはタクシー呼ぶから心配しないで」

「絶対だよ! 帰ったら連絡してね。あと、ご両親にご飯おいしかった ですって伝えておいて」

「うん」

 光希を見送り、再びひとりでカウンターに向き直る。

 私の両親は夫婦でイタリアンレストラン『カルペ・ディエム』を営んで いる。イタリアの三つ星ホテルで修行経験のある父が振る舞う料理はそれなりに好評を得ていて、地元では知名度も高く、人気店としていつも多くのお客さんで賑わっている。

 今日は光希とそこで夕飯を食べた後、このバーにやって来たのだ。 カルペ・ディエムで食事していた際には、母はもちろん、忙しい父も少しだけ顔を出し、久々の光希との再会を喜んでいた。

 系列店も出していて、レストランウエディングも行っている。どこからどう見ても順風満帆だと認識されるだろう。

 シンガポール・スリングをゆっくり楽しみ、あれこれ思い巡らせる。ほのかに照明が落とされたバーの雰囲気とおいしいアルコールは、どこか現実逃避をさせてくれる。

 彼氏と別れて早半年。最後は彼の浮気が発覚し、謝罪するどころか開き直られ、あっさり交際は終了した。初めての彼氏だったし、なんとなく結婚を意識していたからショックではないといえば嘘になるが、そこまで尾を引いていない。そんな自分も嫌になる 。
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