失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「未可子」

 声をかけられ、おそるおそる光輝さんを見た。意図せず視線が交わり呼吸が止まりそうになる。

 夫婦として同じベッドに入ったのだから――。

「そう警戒しなくてもいい」

 口に出していたのかと思うほどのタイミングのよさに、心臓が跳ねる。ちらりと光輝さんをうかがうと、彼は体勢を変え、私たちは向かい合う形になった。ややあって彼の形のいい唇が動く。

「手を出すつもりはない」

 目を見開き硬直する。しかし、しばらくして回り出した頭で納得した。

 好きでもない相手を抱くほど彼だってお人好しでも切羽詰まっているわけでもない。最初から、彼の立場もあって結婚しようと持ちかけられた話だ。愛し合っているわけでもないし。

 ホッとした反面、どういうわけか少しだけ傷ついている自分もいて、いろいろな感情が混ざり合う。

「寝相が悪いって誰に言われたんだ?」

「え?」

 不意に彼が真剣な声で聞いてきたので、思わず聞き返す。光輝さんの目は鋭く、答えるのがためらわれてしまう。しかし、嘘はつけない。

「妹に」

 答えてから一瞬間が空き、光輝さんの反応をたしかめないまま補足する。

「小学生の頃、たまたま妹とテレビで観た映画が、ラストで寝室に女の人が現れる内容で、すっかり怯えた妹が一緒に寝てほしいって言ってきたんです。それなのに朝、起きたら『お姉ちゃん、寝相悪すぎ!』って怒られて……」

 なんとも理不尽だ。しかし、妹の怒り具合からすると、私の寝相は相当なものだったらしい。地味にへこんだ。
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