失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 やっぱり、付き合うなら自分が心から好きになった人じゃないとだめなのかもしれない。でも、そんなことを言っていたから、今まで恋人のひとりもできなかったんだ。

 そもそも恋愛自体、向いていないのかな。

 軽くため息をついて、最後になにを注文しようか考えながら残りのグラスの中身を飲み干す。

「マルガリータを」

「かしこまりました」

 たまにはアルコール度数が高めのショートカクテルを飲んでもいいかもしれない。

 ちらりとスマホの画面を見つめるが、ずっと待っている連絡はやはりない。

「どうぞ」

 カウンターに置かれたカクテルグラスに手を伸ばした。グラスの縁に飾られたライムの香りが鼻孔をくすぐる。柑橘系がやっぱり私には飲みやすい。

「ねぇ、ひとり?」

 突然、声をかけられ驚く。横を見ると、光希が座っていた椅子にスーツを着たスーツを着た男性が腰を下ろしている。見た目は三十代前半くらいか。

 パーマのかかった明るめの茶色い髪が印象的だが、それ以上に軽薄そうな笑みが目につく。彼はトールグラスを片手に姿勢悪くこちらに視線を送ってきた。

「よかったら一緒に飲まない?」

 酔っているのか、 あまりにも軽いノリに嫌悪感が走る。

「結構です」

 彼の方を見ず前を向いて突っぱねる。しかし男性は意に介さずスマホを取り出した。

「俺、今フリーなんだ。こう見えても 大手商社の営業マンやっててさ。よかったら連絡先を教えて」

 片手でいじり始めるが、もちろん教えるわけがない。せっかくの気分が台なしだ。残りのマルガリータを一気に飲み干し、会計をお願いしようとした。
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