失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 ひとつずつ彼を知るたびに、近づけている気がしてうれしい。

 夫婦らしく、なっているよね?

 自問自答しながら、慌てて意識を戻す。

 そろそろ前の映画が終わる頃だ。上映しているのは、原作小説がミリオンセラーとなり主題歌も話題を呼んでいる今、大人気の恋愛映画だ。おそらく今日もほぼ満席だろう。

 そうこうしているうちに、ちらほらと人が出てくる。人の流れからすると、エンドロールが始まったくらいか。

 私はエンドロールまできっちり見て、館内が明るくなるまで楽しむ派なんだけれど。とはいえ事情はさまざまだろう。出てくる客層は、カップルや友人同士など大人が多い。

 ここ、邪魔だよね。それこそエンドロールが終わったら、大勢の人がやってくるし。

「誰かー!」

 そのとき、どこからか聞こえた女性の叫び声に、どよめきが起こる。

「その男をつかまえて! 白いシャツと青いズボンの男!」

 なに?

 幾人かの怒鳴り声とともに不穏な空気が漂っている。状況が理解できずにいると、人波をかき分け紙袋を抱えた男性がこちらに向かって走ってきた。

 マスクをつけているので顔ははっきりしないが、女性の言葉通り、白いTシャツと青いデニムのズボン姿だ。「邪魔だ!」と叫びながら、人混みを抜けようとする姿は異質で、恐怖を抱かせる。

 その男が、私の方に近づいてくる。正確には私のそばのドアを抜け、外に行こうとしているのだ。
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