失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「けがは? なにもされてないか?」

「だ、大丈夫です」

 自分の身に起こったことを意識すると、心臓が早鐘を打ちだす。けれど光輝さんの顔を見てホッとした。

 ひったくり犯の末路はもちろん、彼を捕らえた光輝さんにも注目は集まっていた。冷静で鮮やか。しかもこの見た目だ。

 若い女性たちが彼を見てこそこそ盛り上がっている。

 光輝さんは、襟付きシャツにネイビーのジャケットとダークブルーのスラックスと相変わらず上品で涼しげだ。このままネクタイをつけたら仕事にも行けそうな気がする。

 もしかして彼は仕事を終え、そのまま来てくれたのではないか。

「すみません、お話をお伺いしたいのでお時間かまいませんか?」

 そこへ先ほどの警備員の男性が声をかけてきた。荷物を取られたであろう女性とともに警察が来るまで一緒に待機してほしいと告げられる。

「わかりました」

 答えてから光輝さんがちらりと私を一瞥したので、大きくうなずいた。

「悪い。せっかく映画を見る予定にしていたのに」

「そんな! 私もあの女性も光輝さんに助けられたんですから。申し訳なく思わないでください」

 状況が状況だ。私も光輝さんと一緒についていく。途中、荷物を取られた被害女性も一緒になった。やわらかい茶色の髪をシュシュで束ね、私よりもやや年上くらいのかわいらしい雰囲気の人だ。
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