失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「館内がまだ暗かったから、そういうためらいもあったかもしれないんですけれど、追いかけるなんて二の次で……」

「大事なものだったんですね」

「はい。恋人へのプレゼントをいくつか見繕って、まとめていたんです」

 私も、自分のものよりも光輝さんのものがなくなる方が絶対に慌てそうだ。

 つくづく犯人を止めた光輝さんはすごい。笑みを浮かべ光輝さんに視線を送ると、彼はなぜか厳しい表情をしていた。

 光輝さん……?

 どうしたのかと尋ねる前にバックヤードに入り、口をつぐむ。

 奥の控室みたいなところに行くと、制服を着た警察官が警備員の男性と話していた。彼らの視線がこちらに向き、警察官が頭を下げる。

「わざわざ、すみません。おけがなどはありませんか? 少しお時間いただきたいのですが……」

 大丈夫だと全員が答えると、警察官が、男が奪っていった女性の手提げ袋を持ってきた。

「男が持っていった荷物、あなたのもので間違いありませんか?」

「そうです!」

 袋には宝飾品の有名ブランドの名が刻まれており、女性は笑顔で受け取った。

「大事な証拠品となるので、写真などを撮ってからのお返しになりますが……。ほかに取られたものは?」

「これだけです。……よかった。大事なものなので」

 手提げ袋の紐をぎゅっと握り、女性は目の前に袋をかざしている。他人事ながら、荷物が戻ってきてよかったと安堵する。
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