失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 光輝さんの好みは大分把握してきたつもりだ。それを踏まえつつ健康的な食事を意識して用意してみたり、家でくつろいでもらえるようにベッドメイキングや掃除をしたりと手を抜いていない。

 とはいえもともとあまり物がなくて家は綺麗だし、乾燥機付き洗濯機に自動掃除機など最新の家電があって、たいした務めを果たせていない気もする。

 光輝さん、もともとひとりでなんでもできる人だし、甘えるどころか逆に私がいてストレスになっている可能性も……。

 光輝さんを知りたくて、あれこれ質問するのもあって私から話題を振る機会が多い。けれど光輝さんは、きちんと答えて私との会話をないがしろにしたりはしない。

 元カレには、よく話しかけて鬱陶ししそうな顔をされた。仕事で疲れているんだからって。

 気持ちはどうであれ、夫婦として私に向き合おうとしてくれる光輝さんのためにがんばりたい。

「光輝さん、コーヒー淹れたのでいかがですか?」

 夕飯を済ませ一段落ついた後、リビングで本を読んでいる彼に声をかける。もらう、と短く返されたので、彼の分のカップを持ってゆっくりと光輝さんに近づいた。彼の前にカップを置く。

「とりあえず、座ったらどうだ?」

 ふと、ソファに座っている光輝さんを見下ろす形になっている私に、彼は冷静に促してきた。立ったままでは失礼かと、私はぎこちなく彼の右隣に腰を下ろす。

 そして、改めて体を彼の方へ向けた。

「今日、実家に顔を出したのですが、妹が光輝さんに挨拶できていないのを気にしていまして……。体調が安定したら、妹にも会ってもらえませんか?」

「もちろん、そのつもりだが?」

 かしこまって告げるほどの内容ではないのかもしれない。現に、光輝さんは不思議そうな顔をしている。けれど肝心なのはここからだ。
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