失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
状況についていけずにいると、バーテンダーが会計を伝えに来たので、支払いをしようと慌てて財布を取り出す。しかしさっさと彼がクレジットカードを渡した。
とっさに私が支払うと伝えようとしたが口をつぐむ。この場で支払いに関して言い合うのはスマートではない。 会計を終え、ダラダラ滞在するのも。
サインを済ませた彼に促される形で店を出た。そのタイミングで私は呼びかける。
「おっ……光輝さん」
慣れないながらも初めて名前で呼ぶ。 だって、私にとって彼は光希の〝お兄さん〟で、ずっとそう呼んでいた。会うのは、およそ十年ぶりだ。
彼は鷹本光輝さん。光希の五つ年上の兄で、今は警察庁に務めている。この四月から警視正に昇進した、いわばキャリア組の警察官だ。
昔から優秀で日本で最高峰と言われる大学の法学部を首席で卒業し、国家公務員試験の成績もトップでクリアして将来を有望視され警察庁に迎えられたと聞いている。光希の自慢の兄だ。そして、私の初恋相手だったりもする。
「光希から連絡があったんだ。家まで送っていく」
冷静に考えると、彼がここに現れた理由は光希から聞いた以外ないだろう。とはいえ、妹に頼まれたからって、十年も会っていない妹の親友をわざわざ迎えに来るだろうか?
ましてや、彼は私をよく思っていない……はずだ。苦い思い出とともに胸が苦しくなる。
彼の意図はわからない。けれどひとつ確かなのは、久しぶりの再会だと喜べる間柄ではない。少なくとも私は会いたくなかった。彼も同じだろう……。
とっさに私が支払うと伝えようとしたが口をつぐむ。この場で支払いに関して言い合うのはスマートではない。 会計を終え、ダラダラ滞在するのも。
サインを済ませた彼に促される形で店を出た。そのタイミングで私は呼びかける。
「おっ……光輝さん」
慣れないながらも初めて名前で呼ぶ。 だって、私にとって彼は光希の〝お兄さん〟で、ずっとそう呼んでいた。会うのは、およそ十年ぶりだ。
彼は鷹本光輝さん。光希の五つ年上の兄で、今は警察庁に務めている。この四月から警視正に昇進した、いわばキャリア組の警察官だ。
昔から優秀で日本で最高峰と言われる大学の法学部を首席で卒業し、国家公務員試験の成績もトップでクリアして将来を有望視され警察庁に迎えられたと聞いている。光希の自慢の兄だ。そして、私の初恋相手だったりもする。
「光希から連絡があったんだ。家まで送っていく」
冷静に考えると、彼がここに現れた理由は光希から聞いた以外ないだろう。とはいえ、妹に頼まれたからって、十年も会っていない妹の親友をわざわざ迎えに来るだろうか?
ましてや、彼は私をよく思っていない……はずだ。苦い思い出とともに胸が苦しくなる。
彼の意図はわからない。けれどひとつ確かなのは、久しぶりの再会だと喜べる間柄ではない。少なくとも私は会いたくなかった。彼も同じだろう……。