失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 目を瞠って千恵さんに視線を送っていたら、彼女はふっと微笑んだ。くっきりと朱に彩られた唇が緩やかに弧を描く。

「全部知っていますよ。だてに警察の人間の娘をしていませんから。あなたのご実家の問題を解決するために、光輝さんはあなたと結婚した。同情か、警察官としての使命感か、正義感からかは知りませんが」

『君の事情を知って、俺ならどうにかできるのに、なにも知らないふりをしたら俺は一生後悔する』

 少しずつ暴かれていく感覚。ずっと責められているようで、彼女が口を開くたびに光輝さんの発言が思い出される。まるで答え合わせだ。

「どっちにしても、光輝さんはもっと賢い人だと思っていました。残念です」

「光輝さんのことを悪く言わないでください!」

 あれこれ考える間もなく即座に反論する。しかしこれ以上言葉が続かず、精いっぱい、不信感あふれる眼差しを彼女に向けることしかできない。

 しかし千恵さんは物ともせずに続ける。

「一人前に妻の立場でおっしゃるんですね 。そうですね、彼は冷静に自分を客観視して、最善を選べる人間です。ですから、ほとぼりが冷めたら私に返してくださいね。いいえ、正確には彼は最終的に私を選ぶので、それまで光輝さんをよろしくお願いします」

「え?」

 さすがに声が漏れる。うろたえる私をよそに千恵さんは余裕たっぷりだ。
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