恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
「……出過ぎた真似をいたしました。長谷部さん、失礼な言い方をして申し訳ございません」


「あ、いいえ……私は」


態度を一転して謝罪され、戸惑う。

五十嵐さんはそんな私を感情の読み取れない目で見つめてくる。

彼女の主張はきっと正しい。

匡が多忙で疲れているのはもちろん理解している。

でも私は少しだけでも彼に会いたかった。

それは許されないワガママなのだろうか。

私たちの周囲に重い空気が漂い始めたとき、元気な女の子の声が響いた。


「お姉ちゃん、ペンギンさんが泳いでた!」


(しおり)、走っちゃダメよ」


五十嵐さんが即座に剣呑な表情を消し、慌てた様子で注意する。

水槽の陰からふたつ結びの髪を揺らして走って来た女の子が、私たちのすぐ傍で足を止める。


「お姉ちゃんのお友だち?」


「栞、この方は……」


「そうだよ、初めまして」


五十嵐さんの言葉を遮った匡が女の子の前で屈む。


別所(べっしょ)栞です。五歳です」


「よろしくね、俺は匡だよ」


「匡お兄ちゃん?」


栞ちゃんの呼びかけに、五十嵐さんの表情が強張るが、匡は小さく首を横に振った。

子どもに役職といった余計な気遣いは不要と思ったのだろう。

学生の頃から、彼のこういった細やかな心遣いに密やかに憧れ、尊敬していた。

栞ちゃんと目線を合わせて話す姿を、ただ黙って眺める。

栞ちゃんは五十嵐さんの姪だそうだ。

今日は水族館に一緒に行く約束をしていたらしい。
< 102 / 156 >

この作品をシェア

pagetop