恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
素直でもなく、可愛げもない。

彼のように手際よく仕事をこなしたり、素晴らしいアイデアがひらめくわけでもない。

年齢を重ねて、自分の感情に鎧を着せるのがうまくなり、ただ処世術を身に着けただけだ。


「琴子ちゃん、イルカのショーに行こう!」


突如割り込んだ明るい声にハッとする。


「ええ、約束していたものね」


五十嵐さんは動揺ひとつ見せずに、姪に優しく返答する。


「眞玖、どうした?」


黙り込んで五十嵐さんと栞ちゃんを見つめる私を、匡が訝しむ。


なにを言えばいい?


この状況で私はどう振る舞うのが正しいの?


頭の中に幾つもの問いかけが浮かんでは、消えていく。


「お兄ちゃん、ばいばい!」


満面の笑みを浮かべ、大きく手を振る栞ちゃんと隣で柔らかく会釈する五十嵐さんの姿に、心が軋む。


「五十嵐、また会社でな。栞ちゃん、またね」


匡はふたりに挨拶を返し、私の手を引く。


「五十嵐になにか言われた?」


ふたりから離れてすぐ、彼が問う。

私を覗き込む目が、心配そうに揺れている。


「……ううん、匡の多忙ぶりを聞いただけよ。匡の状況をきちんと理解できていなくてごめんね」


「会社が違うし、眞玖は俺の部下じゃないだろ。わからなくて当然だし、謝る必要はないよ」


当たり前のように返された言葉に、なぜか胸に小さな棘が刺さった気がした。
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