恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
「席に戻るね。蘭、心配かけてごめん」


グッと足に力を入れて立ち上がる。


「眞玖、なんでそんなに冷静なの? まさかこのまま静観するつもり?」


「今からさっきの会議の決定事項を後輩に伝えなきゃいけないし、机の上も未処理の書類を置いたままなの。片づけたら考えるから」


「こんな状況でよく仕事が手につくわね」


小さく嘆息する親友に首を横に振る。


「……怖くて、どうしていいかわからないの。無理やりでも体と頭を動かしていなければ、きっとうずくまって泣いてしまう」


今だって、震える指に無理やり力を込めて押さえつけている。

どんなときも冷静沈着なしっかり者と周囲に噂されているのは知ってる。

でも本当の私の心は脆くてとても弱い。

匡から真実を聞きたいと願う一方で、最後通牒を突きつけられるのに怯えている。


「藤宮副社長の前で泣いて怒りなさい。眞玖だけが頑張る必要はないの。真実を知るのは怖いけど、逃げてもなにも解決しないんだから」


蘭が立ち上がり、真剣な目を向ける。


「藤宮副社長に会ってきなさいよ。書類仕事や後片づけは引き受けるから」


親友の頼もしい姿に鼻の奥がツンとした。


「……ごめんね」


「そこはありがとうでしょ。そのかわり、私が運命の相手に出会ったときには助けてよね」


優しい心遣いに胸が詰まった。
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