恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
その後、蘭とともに急いで残務を片づけ、帰り支度をした。

帰り道で緊張しつつも、匡に電話をかけたが応答はなかった。


――会いに行こう。


暗転したスマートフォンの画面を見つめ、決意する。

午後七時前のこの時間帯ならきっと匡はまだ会社にいるだろう。

会社のすぐ近くで待っていれば会えるかもしれない。

なけなしの勇気が消えてしまわないうちに、急いで足を動かす。


「す、すみません」


慌てていたせいか、会社を出てすぐの歩道で誰かの肩にぶつかった。


「いえ、こちらこそ……長谷部さん?」


低い男性の声に名前を呼ばれ、顔を上げる。

そこには五十嵐さんが立っていた。

会いたい人には会えないのに、会いたくない人になぜこのタイミングで会ってしまうのだろう。


「偶然ですね、ちょうど御社に伺うところなんです」


爽やかな笑顔にどう対応すべきか迷う。

この人は今起こっている騒動を知っているのだろうか。

彼の表情からはなにも読み取れない。


「お急ぎのようですが、もしや今朝の婚約報道の件で藤宮副社長に会いに行かれるのですか?」


五十嵐さんが口にした名前にビクリと肩が跳ねる。

彼は落ち着いた様子で私をじっと見つめる。


「……すみません。急いでいるので、失礼します」


「今、藤宮商事に行かれても藤宮副社長はご不在ですよ。会社には多くの報道陣が押しかけているらしいですから危ないです」


あっさり知りたい情報を告げられて、動かしかけた足が止まる。
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