恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
「眞玖、おいで」


久々に耳にする低い声と大きな手に導かれ、もつれそうになる足を動かす。

ホールを出て廊下を足早に通り過ぎる。

新社屋への移転はまだ先らしく、ホールから離れれば人気はほとんどない。

長い廊下に並ぶ似たような扉のひとつを開けた彼が私を押し込む。

扉を閉めて振り返り、私の顔を覗き込んだ。


「ただいま、眞玖」


約四年ぶりに至近距離で口元を綻ばせる彼は、色気も増し、さらに魅力的な男性になっていた。


「お帰り、は言ってくれないの?」


「お、お帰りなさい」


藤宮くんの声にハッとして返答する。

思わず見惚れていた、なんて口にできない。


「あ、の……なんで……」


尋ねたい事柄が多すぎて混乱し、焦りばかりが募って空回りする。


「会いたかった」


藤宮くんの言葉が、私の胸を矢のように真っすぐ貫く。


「昨年末に一時帰国したが、引継ぎでアメリカと日本を行ったり来たりしていた。落ち着いたのは先週くらいだ」


私の心中を察したかのように説明される。


「だからって、今日、パーティーだなんて……」


それこそ近くのカフェでひっそり再会を喜ぶだけで十分だったのに。

会わないと宣言されていたが、往生際の悪い私は少しでも彼と繋がっていたくて、メールを数回送ったりしていた。

けれど事務的で儀礼的な返事に勝手に心が折れて、やはり迷惑だったのかとメールを送るのを控えるようになった。

以来、彼とは連絡を取っていない。

恋人でもない私はただ、空港で交わした最後の会話をまるでお守りのように覚え続けるのみだった。
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