恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~
「絶対に長谷部さんに手渡してほしいって頼まれまして……うちの課内の女性から五十嵐さんは大変人気なんですけど、いつも断られてばかりで。私的な番号なんて五十嵐さんは誰にも教えてないはずですし、もちろん俺も知りません」


まるで私がとても光栄な立場にいると言いたげな辻󠄀くんの物言いに眩暈がする。


「長谷部さん、五十嵐さんのご実家についてご存知ですよね?」


「……うん」


「新見不動産には修業を兼ねて入社されたそうです。話は戻りますが、五十嵐さん、長谷部さんを本気で気に入っているみたいですよ」


どうにも根拠の乏しい後輩の指摘に、今度は頭が痛くなってくる。

失礼かもしれないが、五十嵐さんの思惑はそんな純粋なものではないだろう。


「助けていただいたのにすみません。でも五十嵐さんにどうしてもとお願いされてしまって」


「仕事の件は構わない。でもこの名刺については一旦預からせて。連絡する、しないは私が判断するから。それとこの件はお願いだから口外しないでね」


「もちろんです、五十嵐さんにも言われましたから」


……この後輩は一体誰の味方なのだろう。

匡と私の婚約は正式発表こそされていないが、彼が隠さないせいもあり巷では噂され、多くの人に知られている。

辻󠄀くんが知っているのかはわからないけれど。

購入した紅茶を手に、自席へ向かう足取りは重い。

いくらプライベートな番号を渡されたとはいえ、連絡するつもりはない。

ただ新見不動産、ひいては五十嵐不動産との関係を考えれば、専務には報告しておくべきなのだろう。
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