隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)

 お見合いの当日だというのに、わたしの心は曇ったままだった。

 桐山くんとわたしは『いつも通り』に仕事をしていた。彼はあれからなにも言ってこなかったし、わたしも藪をつつくような真似をしなかった。

 だから表面上はいつも通りに仕事をこなしていたと思う。
 ーーそもそもわたしは彼の補佐をして二年経つけれど、ほとんど仕事の話しかしていない。
 それなのにどうして彼が急にあんなことを言ってきたのか……。


(……ううん。今日は桐山くんのことを考えるのは止めよう。そんなことをしていたら相手に失礼だわ)

 寝室のクローゼットに備え付けてある全身鏡で服装をチェックする。
 一応お見合いだということでミディアム丈のタイト目なベージュのワンピースに濃いめのブラウンのベロアジャケットを新調した。首元には雫型のアクアマリンとダイヤのネックレスを付けて、髪は丁寧に櫛でといてから緩く巻いてスタイリング剤を撫で付けて、低めのポニーテールにしてみる。

 メイクはいつもよりもベースメイクを意識してしっかりと施した。その分、ファンデーションを薄めにし、コンシーラでクマを隠す。
 そしてきつく見えないようにナチュラルを意識してブラウンのアイシャドウに細めに入れたアイライナー。マスカラは繊維質のものでしっかりと長さを出して、眉毛はストレートアーチ型に形を整える。チークはベージュレッドの色をさっと入れて、仕上げの口紅はつい最近買ったブランドのものだ。
 しっとりとしたテクスチャーで潤いがあり、顔色を良く見せてくれる綺麗なベージュピンクの色。この年でピンクは可愛い過ぎるかなと思ったけれどベージュの色味が強くラメも控えめなので会社にも付けていけるだろう。


(どこも変じゃないよね?)

 気合い入れすぎたかな、と思いながら鏡を見る。
 そわそわと何度も鏡を見返しながらも、残念ながら答えてくれる人なんて居るはずもない。
 チラリと壁に掛かってある時計を見れば待ち合わせ時間の一時間半前だ。行く道中で何かあっては先方に失礼だし、そろそろ家を出るかと落ち着かない気持ちで家を後にした。


***



 余裕を持って一時間前に待ち合わせ場所のホテルのロビーに到着すれば既に母も姿を見せていた。

「お母さん、早くない?」
「だってなんか落ち着かなくて。なんだか自分のお見合いより緊張するわぁ」
「ああ。確かお父さんとお見合いで出会ったんだっけ?」
「そうよ。向こうからの一目惚れ」


 きゃいきゃいと話す母は朗らかで年よりも若く見える。それでいて小動物な見た目とは違って、家ではしっかりと父の手綱を握っているのだから恐れ入る。それでも父は嬉しそうにしているのだから、良い関係だなと思う。
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